和歌山県那智勝浦町「合名会社丸正酢醸造元」のお酢でこれまでの酸っぱいだけのお酢の概念が変わりますよ。ゲスト:だいたひかるさん
みなさま、お酢はお好きでしょうか?
朝食の目玉焼きに醤油をかけながら、「やっぱり醤油だよね。ソース?ケチャップ?冗談じゃない!」と、私と醤油はささやかですが、かたいキズナで結ばれていることを常々思います。
コンビニでお寿司のパックを買い、それを食べるときに醤油が入っていないときの失望は、いつもの小粒納豆を間違えて、ひきわり納豆を買ってしまったときよりも大きいのですが、それでも私と醤油の信頼関係は一度たりとも崩れたことはありません。焼き魚のさんまに大根おろしに醤油、そろそろですね。
それでは、お酢は?
例えば、タコとワカメの酢の物を食べたとき、私とお酢はかたいキズナで結ばれているとは思えません。あの酸っぱさが、なんか体にいいという淡い信頼関係はあるにせよ、また、寿司飯にお酢という、これがなければ美味しい寿司は食べられないという鉄板な関係を知っていても、これまでお酢がなくて失望したこともなく、その証拠に醤油はちゃんと醤油差しに入れ替えてのお付き合いですが、お酢は買ったままの瓶ごとです。それも台所の下のほう、暗いところに、収納されています。
ここまで書いて、私は台所の下の方にサラダオイルやみりんと並ぶほったらかしのお酢に対し冷たくして生きてきたのではないかと反省の念にかられ、これからは大事にするかんね、という流れに急に方向転換してしまうのですが、その理由はこれです。
6種のお酢とつゆ
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町で1879年(明治12年)に創業した「合名会社丸正酢醸造元」のお酢のいろいろです。左から「生しぼり橙ぽん酢」「寿しの酢」「生しぼり柚子ぽん酢」「土佐酢」「ちゃんぽんず」「さんばい酢」、そして「手づくりつゆ」いずれも無添加。
ジャーン!これが届いたときに、お酢ってこんなにあるものなのかと、これを使い分けるには、どのようにしたらいいのだろう? とまず思いました。
そして、日本料理にとって、お酢とは? と、もしかしておいしいお酢を知らずして今後の人生を過ごすのは何か大きな忘れ物をしているような、食生活への損失を感じたのであります。
そこで早速、日本料理に詳しい知り合いのH先生(某調理師専門学校の日本食の教授)に「お酢って、日本料理ではどんな存在なんですか?」と聞いてみました。
「日本料理で献立を立てる基本には、『五味』『五色』『五法』という技法が用いられます。五法は、焼き物、煮物、揚げ物、蒸し物、生は刺身という5つの調理法のことで、会席料理などにはこれら5つの料理が必ず並んでいます。
お気づきでしょうが、このなかに特に酢の物は入れなくてもいいのです。
ただ、5つの料理の味に飽きないように、口直しとして、また、食欲増進のために酢の物はお出しします。お食事の最初のころだったらお酢も薄めであっさりとした料理、また、お料理の中盤から後半では、お酢をやや多くします。お酢は塩味をやわらげる性格があり、栄養素の燃焼を促すのです」
つまり、お酢の料理は料理人の腕の見せどころ、野球でいえばワンポイントリリーフのような、ここをしっかり抑えれば試合が決まるような貴重な役割なのでしょう。また、魚貝の下準備で、酢洗いをすると生臭味がとれ、鯖や鯵などは薄皮がむきやすくなります。
「酢の物一品に義父は、息子はいい嫁をもらったと思う」とだいたひかるさん
では、だいたひかるさんの意見を聞いてみましょう。彼女のもとにも「合名会社丸正酢醸造元」のお酢のいろいろが送られており、今回もまたお料理をつくっていただきます。
作並:だいたさんは、酢の物をどんなときにつくりますか?
だいた:ちょっと太ってきたかというときにダイエットでタコとキュウリを和えたり、トマトの酢漬けなどをつくって食べます。それから主人のお父さんが家に来てくれたときに、きれいなガラスの器に入れた酢の物を、いつもつくっています的な顔をしてお出しします。
作並:やりますね。
だいた:義父はうちの息子は、普段どんなものを普段食べているのか興味があると思うんです。そこで酢の物は絶対に悪いイメージはないし、うちの嫁はなかなかわかっているという、ちゃんと料理をつくってくれているという安心感があるんですよ。酢の物を一品加えるだけで、いい女感がありお嫁さんとしてのグレードもあがります。
作並:なるほど、説得力ありますね。では、ご主人はお酢をつかったお料理ではどんなのが好きですか?
だいた:ちらし寿司です。私も好きで専用の木の桶があり、一人暮らしのときに桶を買うのが夢だったんです。ちらしのとき主人は2合ぐらい食べます。
作並:2合ってごはん茶碗で5〜6膳ぐらいですか?
だいた:3合のときもあります。とにかくご飯が大好きで、つくりがいがあります。仕事が終わると安心してドカって食べるタイプで、その楽しみを奪うのは悪いので、ときどき、1.5合炊いて2合っていうマジックもつかいます(笑)。
それでは、さっそくだいたさんに、丸正さんのお酢のいろいろを使用して、3品をつくっていただきました。まずはちらし寿司からです。
【だいたひかるさんの木桶ちらし寿司のつくり方】.
ご飯を炊き、「寿しの酢」と混ぜて、粗熱をとったら、細かく切ったお刺身の盛り合わせ、キュウリ、シソ、玉子、とびっ子、ごまを混ぜて出来上がり!
だいたさんの感想:手間暇かけた事が分かる奥深い「寿しの酢」でした!」
「寿しの酢」は昆布、甘酒、味醂の素朴な調味で無添加。
続いて「豚しゃぶサラダ」、「酢の物」のつくり方
豚しゃぶサラダと酢の物義父ごのみ。
【豚しゃぶサラダのつくり方】
キャベツの千切りとブロッコリースプラウトを混ぜ、豚をしゃぶしゃぶして盛って出来上がり!
だいたさんの感想:「ちゃんぽんず」は、サラダ以外も豆腐などにも使いたくなり、使い勝手の多い酢だと思いました!色々な物にかけて食べたくなる品です。
「ちゃんぽんず」は柚子、橙、すだち、ゆこう(柚子より大きめで香気が強い)、かぼすと5種の柑橘の果汁をすべてミックス。
【酢の物 義父ごのみのつくり方】
タコと塩揉みしたキュウリに、「土佐酢」を混ぜて出来上がり!
だいたさんの感想:「土佐酢」をかけて混ぜるだけで、お店みたいな味になりました!
だいたさんは、今回、木桶ちらし寿司、豚しゃぶサラダ、酢の物義父ごのみの3品をつくってくれました。
昔ながらの手づくりにこだわる「合名会社丸正酢醸造元」
さて今回は、郡那智勝浦町にある「合名会社丸正酢醸造元」の手づくりのお酢を紹介していますが、丸正さんが他の酢醸造元と大きく異なることが2つあります。
その1は、水です。那智滝(なちのたき)と同じ水源の熊野山系の伏流水を仕込み水に使用し、これが口あたりの柔らかな最良の軟水なんです。では、その井戸を見てみましょう。
で、この井戸の水はどこからくるのか、那智勝浦町の那智川中流にかかる滝、那智滝(なちのたき)からです。
那智滝(なちのたき)は、落ち口の幅13メートル、滝壺までの落差は133メートル。熊野那智大社、三重塔(青岸渡寺)との景勝が素晴らしい。ユネスコの世界遺産『紀伊山地の霊場と参詣道』の一部。
その2は、醸造するときの大桶です。現在、大量生産のお酢メーカーはステンレス等の容器を使う速醸法ですが、丸正さんは大きな木の桶で造る古式醸造法(静置発酵法)。こちらがその大桶になります。
2メートルを超す大きな発酵桶が9個あり、米こうじや玄米もち米に地下水を混合して仕込みます。六ヵ月から一年半の長期熟成のものがほとんど。 続いて142年前からお酢を作り続ける昔の蔵の写真です。
酢をつくるための酢酸菌は、熟した柿の実に偶然、どこからか飛んできたものを誰かが発見したのがきっかけで、これが約200年から300年ほど前のことらしい。
四代目小坂和子さんに聞く、丸正の味
さて、丸正さんのお酢の特徴は、かどかどしくなく、やわらかい酸味が特徴です。ここから四代目の小坂和子さんに、いろいろと伺います。
四代目の小坂和子さん
作並:資料によりますと先代のお父様、小坂晴次(1927年-2019年)さんは「酢は生き物」が口癖だったそうでしたが、何か特別なことをなさっていたのでしょうか?
小坂和子:毎朝、5時半に起きて、井戸に燈明をあげ、礼拝して、感謝の気持ちを捧げていました。それから醸造蔵に入るとき、入り口近くの棚に手を合わせ、ほら貝を吹き、拍子木を打っていました。
酢は生き物だから、自然と語り合う心構えが必要なんだとよく話してくれ、誰でもつくれる酢はつくりたくないと頑固な一面もあり、また手づくりのお酢づくりに情熱をそそぎました。
では、そんなお父様、小坂晴次さんのありし日の写真を見ていただこう。
大桶には好きな力士の名前をつけていた。長期熟成のお酢、夜静かな蔵に、お酢の生きる音が聞こえるとか。そしてこれが法螺貝。
植物や動物に音楽を聴かせると生育がよくなるという研究は進化論のダーウィンから行われているそうだ。神宿る那智山系の伏流水でつくる酢に法螺貝とは神秘的。
「さんばい酢」「橙ぽん酢」との相性のよい料理
それでは、だいたひかるさんは「寿しの酢」「ちゃんぽんず」「土佐酢」をつかったお料理でしたが、これからは「さんばい酢」「橙ぽん酢」との相性のよい料理を小坂和子さんに教えていただきました。
「さんばい酢」はかつおだしや昆布をつかったお酢で、うま味成分たっぷりですが、これはもちろん酢の物や、おひたしの他、エビフライなどの揚げ物にも合います。
ウズラの卵、エビ、イカのフライものに大根おろしにたっぷりのさんばい酢がフライのころもにしみわたり、あっさりとした酸味とほどよい甘味が口の中いっぱいに広がり、これはいいアイデア。このさっぱりさはきっと子どもたちにも好きな味わい。
「生しぼり橙ぽん酢」
橙は正月の飾りなどにつかわれますが、もともとぽん酢といえば橙をつかっていたらしい。これはしぼりたて果汁をたっぷり使い素材の調味で風味を引き立てた古来そのままの素朴なだいだいぽん酢。冬の鍋物だけでなく湯豆腐、水だき、焼き肉、焼き魚にも相性がいいそうです。で、ここでは焼き肉に合わせてみます。
まずは焼酎の黒霧島のソーダ割りで晩酌をすることにして、焼き肉をつくりました。冷蔵庫にあった高菜の漬物を添え、大根おろしに生しぼり橙ぽん酢をかけて、薬味に細かく刻んだ青唐がらし。焼き肉で大根おろしを包むような感じで食べると、橙ぽん酢の深みのある酸味と青唐がらし(新宿よしもと唐からしの初物)の風味のピリ辛がソーダ割りによく合い、このうえない晩酌タイム。
今回の発見は、丸正さんのお酢はお酢だけどドレッシング、タレなのでもあり、コクと味が私が知っていたこれまでのお酢とはまったく違って、これは間違いなくお料理の幅を広げ、また食事を楽しくさせてくれる商品ということ。また、こういうほんまものは、子どもたちの味覚の教育にも役立つと思いました。ぜひ、皆さんもご家族でご賞味願います。
文:作並太郎
(商品情報)
丸正酢醸造元 ふるさと手造り銘品集300ml 2本入りセットA
(橙ぽん酢・ちゃんぽんず)※送料込み 価格3,380円(税込)
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丸正酢醸造元 ふるさと手造り銘品集300ml 2本入りセットB
(古上寿しの酢・さんばい酢)※送料込み 価格3,220円(税込)
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丸正酢醸造元 ふるさと手造り銘品集300ml 2本入りセットC
(土佐酢・手づくりつゆ)※送料込み 価格3,220円(税込)
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冷やし中華のつゆに最適。かつおだし、しいたけ、昆布の自然のだしをたっぷり使いうま味が格段に違います。
■製造者:合名会社丸正酢醸造元
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町天満271
文:作並太郎(本名:松木直也)
1955年生まれ。宮城県仙台市出身。桑沢デザイン研究所卒。宮城大学大学院食
産業学研究科修士過程修了。(専門分野:食育)
1979年より平凡出版社(現・マガジンハウス)の雑誌編集者及びライターとし
て「ポパイ」「ブルータス」などに携わり、音楽や食の関係者のインタビュー
を行う。のち様々な企業誌の編集長を歴任。
90年代後半三國清三シェフとのフランス取材において、ジャック・ピュイゼ教
授(フランス味覚研究所創設者)の「食育メソッド」の提唱を知り、2000年よ
り三國シェフの子どもたちの食育活動をサポート。
現在、東京都市大学付属小学校での食育授業(4年生・年12回)の「ミクニレ
ッスン」は11年目を迎えた。
吉本興業の新宿本社農園で栽培しているイチゴやトウガラシで食育活動を実施
し、「新宿よしもと唐からし」を商品プロデュース。
著名人の伝記も手がけ、著書に「ミクニの奇跡」(新潮社)「加藤和彦ラスト
メッセージ」(文藝春秋)「アルファの伝説 音楽家村井邦彦の時代」(河出書
房新社)がある。